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日本弱視者ネットワーク
Network of Persons with Low vision

(旧称:弱視者問題研究会・弱問研)

視覚障害者の就労に対応する合理的配慮について

はじめに

視覚障害者の就労と聞くと、書類やパソコンでの読み書きができないので、デスクワークは無理だと思われがちですが、支援機器(ルーペ、拡大読書器)や支援ソフト(画面拡大ソフト、画面読み上げソフト)などの活用により、多くの視覚障害者が働いています。

例えば、 軽度の弱視者(矯正視力0.1前後~0.3程度)、中度の弱視者(矯正視力0.06前後~0.09程度)は、ルーペ(倍率10倍前後の拡大鏡)を使って手元の書類の読み書きができます。パソコン画面も23インチなどの大画面のモニターを使ったり、フォントを調整することで、一般の人と同様に操作することができます。

重度の弱視者(矯正視力0.02~0.05程度)は、高倍率のルーペや拡大読書器という支援機器を使うことで、手元の書類を読んだり、書き込んだりすることができます。パソコンを使う場面では、パソコンのユーザー補助機能を使った拡大機能や、画面拡大ソフトを使用して、文字を大きくしたり配色を変更したりすることで、文字の読み書きが可能となります。また、音声読み上げソフトと画面拡大ソフトを併用することで、目の負担を軽くし、ミスを少なくしている弱視者もいます。

全盲の視覚障害者の場合、ワードやエクセル、PDFなどの電子文書であれば画面読み上げソフトを利用して文字の読み書きができますし、web検索やフォームへの入力も可能です。紙に印刷された書類は、書籍やワープロ文書であれば、スキャナーでパソコンに読み込んでOCRソフトと画面読み上げソフトを併用することで、内容を確認することができます。

しかし、職場のオンラインシステムで、OSのユーザー補助機能が無効になっていたり、セキュリティー上の理由から、画面拡大ソフトや画面読み上げソフトのインストールが許可されず、十分に能力を活かした仕事ができないケースがあります。

また、操作ボタンがアイコンのみで文字による説明がないため画面読み上げソフトでの操作がしにくいなど、システム開発者のちょっとした配慮によって使いやすくなるケースもあります。

支援機器や支援ソフトの活用に加えて、各職場での業務分担や仕事の分量を調整するなど、業務管理の工夫で視覚に障害のある社員が、その人の能力を活かした仕事ができるようになることもあります。

この他、社員の視力が低下して今までの業務が難しくなった場合でも、リハビリテーション関連施設で数ヶ月間研修を受けたり、能力を活かせる職場に異動することで、それまでの経験を活かして仕事を続けられることがあります。

私達視覚に障害をもつ者も支援機器や支援ソフトの活用、職場でのちょっとした配慮によって、仕事に就くことができ、中途で視覚に障害をおった場合も仕事を継続することができます。

改正障害者雇用促進法と合理的配慮

このたび、障害者雇用促進法が改正され、「合理的配慮」が事業主に義務付けられました。

視覚障害者を採用する際、また、採用した後、どのような「配慮」が必要なのかについて、次の通り、取りまとめてみました。

視覚障害者を雇用する際の参考にしていただければと思います。また、視覚に障害のある方にあっては、会社側に理解していただくための参考としていただければと思います。

1 募集及び採用時の配慮

募集・採用の際には、次のような事項に配慮をお願いします。応募者から障害に関する合理的配慮を希望された場合には、採用に関する実現可能な配慮や職務内容について、応募者と建設的な話し合いが持たれますようお願いします。

  1. 募集内容や求人条件は、視覚障害者が情報入手しやすい媒体(※)で提供する。
  2. 職務上必要な要件として、「活字印刷文に対応できる」や「介助なしで職務が遂行できる」など、合理的な配慮を前提としないまま、一部の障害者を排除するような要件を設定しない。
  3. 採用試験は視覚障害者が対応しやすい媒体(※)で行い、時間延長や、拡大読書器などの補助機器の使用、採光の状況など、本人の力が発揮できることを考慮して実施する。また、拡大文字については一人ひとりのニーズに合った文字サイズとするよう配慮する。
  4. 仕事の内容と関連が少ない資格取得を条件にしたり、実質的に障害を理由に取得できない資格を条件としないようにする。

2 雇用している障害者への配慮

次に、視覚障害を持つ従業員等が働き続けるために必要な合理的配慮について、7項目に分けてまとめます。

(1)支援機器、支援ソフトについて

「はじめに」にも書きましたように、視覚障害を補うための機器やソフトウェアの導入によって、視覚障害者にもできる業務を広げることができます。

次のような配慮をお願いします。

  1. 必要な支援機器、支援ソフトについて、本人とよく話し合い、積極的に導入する。その際、必要に応じて、公的機関からの支援を検討する。
  2. OSに備わっている画面拡大や配色変更、画面の読み上げといったアクセシビリティ技術が利用できる環境を整える。
  3. IT化や社内のシステム構築にあたっては、支援ソフトを組み込めるよう、全体のシステム管理の枠組みに組み込むようにする。
  4. 単に「セキュリティー上の理由」といったことで支援機器や支援ソフトの導入を拒まず、どのようにしたら導入できるかを検討する。

(2)研修について

採用時だけでなく、適時適切な研修を受けられることは、働き続ける上でとても大切です。次のような配慮をお願いします。

  1. 各種の研修は、本人が受けやすい形で実施する。特に資料は対応しやすい媒体(※)で可能な限り事前に提供する。
  2. パソコンソフトのスキルアップなどについては、視覚障害者を対象とした研修機関を積極的に利用できるよう配慮する。

(3)業務内容について

配属や部署内での担当を決める際には、次のような配慮をお願いします。

  1. 業務内容を決定する際には、本人と十分に話し合いをし、決定していく。
  2. 業務内容については、できないと思われることも工夫次第でできることもあり、まずはチャレンジする機会を与える。
  3. 仕事量について、段階を踏んで増やすなど、時間的な配慮を行う。

(4)職場環境について

勤務する職場の環境については、職務や生活がスムーズに行えるよう、次のような配慮をお願いします。

  1. 社内での移動等について本人と十分に話し合い、安全で、安心して働ける環境を作っていくようにする。
  2. 座席やロッカーなどの配置については、本人とよく話し合いをする。また、採光についても十分配慮する。
  3. 建物内の表示や室内の表示等についてはわかりやすいものにする。
  4. 周囲の人にちょっとした手助けを依頼しやすい環境になるよう、周知啓発に配慮する。

(5)異動、転勤、昇進について

長期間働き続けるために、異動や昇進に関する配慮もとても重要です。次のような配慮をお願いします。

  1. 異動、転勤にあたっては、本人の特性に配慮する。また、所属が変わっても、同じ配慮が受けられるようにする。
  2. 昇進試験にあたっては、対応できる媒体(※)で行えるようにするとともに、時間延長や採光などについての考慮を行う。
  3. 昇進条件を対応不可能なものに設定しない。

(6)健康状態の変化等について

視力の変化、中途の視覚障害者になる場合もありますので、健康管理やリハビリテーションに関する次のような配慮をお願いします。

  1. 眼や身体の疲労に配慮する。また、通院を必要とする場合には、勤務時間などに配慮する。
  2. 視力や視野の低下など障害の状況が変化した場合に、それに応じた支援機器や支援ソフトの導入を検討する。その際には、雇用主、システム担当者、本人で十分に話し合いを行う。
  3. 視力などの変化により、新たに支援機器や支援ソフトの研修が必要な場合には、それらを受講できるよう配慮する。

(7)相談体制について

視覚障害を持つ社員と会社の間の相談体制の整備が必要です。次のような配慮をお願いします。

  1. 職場環境について相談しやすい環境を整える。
  2. 定期的に相談できる機会を設けるとともに、随時受ける体制を整える。
  3. 相談内容に応じて、適切な相談先を選定できるよう柔軟に運用する。例えば先輩や上司・社内のスタッフ部門の他、外部の専門家(医療関係・リハビリ機関・福祉団体など)とを交えるなど、柔軟に対応する。
※ 媒体
「媒体」とは、拡大文字・電子データ・録音や対面での朗読・点字などです。
点字による資料を既望された場合、視覚障害者当事者や点字図書館などと相談して、点訳ボランティア団体に作成してもらうことも可能です。