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日本弱視者ネットワーク
Network of Persons with Low vision

(旧称:弱視者問題研究会・弱問研)

2020年7月10日 文部科学大臣 萩生田光一様 日本弱視者ネットワーク 代表 白井夕子

要望書

平素より、弱視児童生徒の学習環境の充実につきまして、ご理解とご尽力を賜り、心より感謝申し上げます。障害のある児童生徒の教科書保障につきましては、2008年に「障害のある児童及び生徒のための教科用特定図書等の普及の促進等に関する法律」いわゆる「教科書バリアフリー法」を制定していただき、拡大教科書の普及にご尽力いただきましたことに深く敬意を表します。一方、法制定から12年の年月を経る間に、国連障害者権利条約をきっかけに、障害者に関わる様々な法制度が整備されました。

とりわけ障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律では、障害者に対する合理的な配慮を求めており、合理的な配慮の不提供は差別になるとされています。つきましては、見え方が一人ひとり異なる弱視児童生徒が合理的な配慮の下、自立と社会参加を目指すうえで以下の2点について特段のご配慮を賜りますようお願い申し上げます。

1.高等学校における拡大教科書・点字教科書と検定教科書の価格差補償

【理由】

障害のある児童生徒が盲学校などの特別支援学校に就学している場合、小学部から高等部まで就学奨励費制度が適用されていますので、高等部においても拡大教科書や点字教科書は無償で給与されています。視覚障害児が地域の小・中学校に就学した場合も、2004年度からは、教科書無償法に準じ、拡大教科書・点字教科書は無償で給与されています。しかし、視覚障害生徒が特別支援学校ではなく、高等学校に就学した場合、就学奨励費が適用されていませんので、鳥取県や島根県などの一部の自治体を除き、通常の検定教科書の数十倍に及ぶ拡大教科書や点字教科書を自己負担しなければならない状況が続いています。現に、ある弱視生徒の保護者が拡大写本ボランティアに拡大教科書の製作を依頼したものの、その実費自己負担額を聞き、依頼を取り下げたという事例も出ています。

既に衆参の委員会では2006年に付帯決議として「就学奨励費等、障害のある子どもへの支援措置に関しては、高等学校の拡大教科書の自己負担軽減など、必要な具体的支援を把握しつつ、総合的な検討を進めること。」という事項が決議されています。

教科書バリアフリー法の附則第2条にも「国は、高等学校において障害のある生徒が使用する教科用拡大図書等の普及の在り方並びに特別支援学校に就学する児童及び生徒について行う援助の在り方について検討を行い、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとする。」と書かれています。付帯決議でも、「高等学校において障害のある生徒が使用する拡大教科書等の普及の在り方の検討に当たっては、拡大教科書等購入費の自己負担の軽減など必要な具体的支援について検討し、その結果に基づいて適切な措置を講ずること。」とあります。

2006年に国連で採択され、日本も13年に批准した国連障害者権利条約の第24条では、「インクルーシブ教育システム」とは、人間の多様性の尊重等の強化、障害者が精神的及び身体的な能力等を可能な最大限度まで発達させ、自由な社会に効果的に参加することを可能とするとの目的の下、障害のある者と障害のない者が共に学ぶ仕組みであり、障害のある者が教育制度一般から排除されないこと、自己の生活する地域において初等中等教育の機会が与えられること、個人に必要な「合理的配慮」が提供されることなどが規定されています。

この流れを受け、2011年に障害者基本法の第16条も「国及び地方公共団体は、障害者が、その年齢及び能力に応じ、かつ、その特性を踏まえた十分な教育が受けられるようにするため、可能な限り障害者である児童及び生徒が障害者でない児童及び生徒と共に教育を受けられるよう配慮しつつ、教育の内容及び方法の改善及び充実を図る等必要な施策を講じなければならない。国及び地方公共団体は、障害者の教育に関し、調査及び研究並びに人材の確保及び資質の向上、適切な教材等の提供、学校施設の整備その他の環境の整備を促進しなければならない。」と改正されています。

2012年に文部科学省より公表された「共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進(報告)」の中でも、「基本的な方向性としては、障害のある子どもと障害のない子どもが、できるだけ同じ場で共に学ぶことを目指すべきである。その場合には、それぞれの子どもが、授業内容が分かり学習活動に参加している実感・達成感を持ちながら、充実した時間を過ごしつつ、生きる力を身に付けていけるかどうか、これが最も本質的な視点であり、そのための環境整備が必要である。」と書かれています。

学校教育法改正の審議のための委員会においても、「障害のある子どもの学ぶ機会を阻害することのないように、一人一人のニーズに対応した教科書をはじめ、教材、教具の研究と開発に努めること。また、その自己負担の軽減に努めるとともに、特に拡大教科書の普及と充実を図ること。」という付帯決議が決議されています。

一方、2013年度からは障害児が地域の小・中学校の通常の学級に在籍していても就学奨励費制度が適用されることになりました。ここでなぜ高等学校が対象にならなかったのか、「可能な限り早期から成人に至るまでの一貫した指導・支援」がが推奨されているにも関わらず、なぜ高等学校に就学する障害児への支援だけが排除されてしまったのか、同じ拡大教科書を使っているにも関わらず、なぜ特別支援学校高等部と高等学校の間の負担の格差が放置され続けているのか、理解に苦しみます。

この状態は、障害者差別解消法が禁じる不当な差別的取扱いとも言えますし、憲法が定める法の下の平等や教育の機会均等にも反していると考えられます。よって、早期に就学奨励費で検定教科書との価格差を補償する措置を講じていただけますようお願い致します。

2.視覚障害特別支援学校(盲学校)高等部における拡大教科書の確実な発行

【理由】

弱視児の学習に必要不可欠な拡大教科書ですが、義務教育段階は全ての教科で発行されているにも関わらず、高校段階となると視覚障害教育の専門機関である盲学校でさえ、文部科学省が定めた標準的な規格通りには発行されておりません。

2008年より開催された拡大教科書普及推進会議の第二次報告には、「高等学校段階における拡大教科書は、標準規格に適合する標準拡大教科書を小中学校段階と同様に提供するとともに、高等学校段階のより一層多様化したニーズにも応えられるように、単純拡大教科書も選択肢として、提供していくことが適当と考える。」と書かれています。

盲学校は北海道から沖縄まで教科書採択を統一しているため、四十数種類の拡大教科書が発行されれば多くの弱視生徒の学習環境が整うことになります。現状は比較的容易に製作できる単純に拡大された拡大教科書は多くの科目で発行されていますが、中・重度の弱視生徒が希望する18,22,26Pの標準的な拡大教科書は十分には発行されておりません。

教科書バリアフリー法第3条では、国の責務として、「国は、児童及び生徒が障害その他の特性の有無にかかわらず十分な教育を受けることができるよう、教科用特定図書等の供給の促進並びに児童及び生徒への給与その他教科用特定図書等の普及の促進等のために必要な措置を講じなければならない。」と規定されています。また第6条では、「教科用図書発行者は、指定種目の検定教科用図書等に係る標準教科用特定図書等の発行に努めなければならない。」とあります。

現状は、教科書バリアフリー法のみならず、憲法や障害者差別解消法にも抵触しかねない状況と言えます。盲学校高等部の採択教科書については、義務教育段階と同様に標準規格通りの拡大教科書が発行されるよう、第6条の努力義務規定を義務規定に改正するなど、実効性ある法制度に改めていただけますようお願い致します。