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日本弱視者ネットワーク
Network of Persons with Low vision

(旧称:弱視者問題研究会・弱問研)

2010年2月1日 文部科学大臣 川端達夫殿 弱視者問題研究会 代表 並木 正

教科書バリアフリー法の一部改正を求める要望書

日頃より視覚に障害のある児童・生徒の教育にご理解とご尽力を賜り厚く御礼申し上げます。また2008年6月には、「障害のある児童及び生徒のための教科用特定図書等の普及の促進等に関する法律」いわゆる「教科書バリアフリー法」を制定していただきましたことに深く敬意を表します。その結果、盲学校の小・中学部においては、ほぼすべての教科で拡大教科書が給与されるようになりました。

しかし、通常の小・中学校に在籍する弱視生徒についてはまだ拡大教科書が十分に行きわたっているとは言えません。平成21年4月に発行された拡大教科書は全検定教科書427点のうち154点、平成22年4月には180点になるということですが、まだ全体の半分にも及びません。よって、拡大教科書が発行されていない場合、新たに拡大教科書を希望しても入手するのは困難な状況にありますので、一部の教科しか給与されていないという中途半端な学習環境も少なからず見られます。また、今日でも「拡大教科書の存在を知らない。」または「申請の方法が分からない。」という理由で全く拡大教科書が給与されていないケースもありますし、ボランティア団体に依頼しても既にパンク状態にありますので、「これ以上は引き受けられない。」ということで断られているケースもあります。

高校段階については、更に深刻な状況にあります。平成21年4月段階では盲学校を含め、発行された拡大教科書はゼロ、その後、盲学校には研究の一環として46科目で原本の検定教科書を単純に拡大した拡大教科書が配布されました。しかし、中・重度の弱視生徒が希望する22ポイントや26ポイントの拡大教科書は研究用としても一切配布されませんでした。その後、平成22年1月、高校段階の拡大教科書標準規格も公表され、義務教育段階と同様に18,22,26ポイントのレイアウトを変更した拡大教科書と字体をゴシック体にし、原本の判の大きさを単純にA4に拡大した12~14ポイント程度の単純拡大教科書の合計4種類の拡大教科書の発行の努力義務が教科書出版社に課せられました。12~14ポイントの単純拡大教科書は主に軽度の弱視生徒を、18,22ポイントのレイアウト変更拡大教科書は主に中程度の弱視生徒を、26ポイントのレイアウト変更教科書は重度の弱視生徒の使用を想定しているものです。言うまでもありませんが、拡大教科書を切実に必要としているのは重度の弱視生徒であり、それは実体調査のデータからも明らかになっています。しかしながら、平成22年4月から発行される盲学校の教科書は全採択教科書46点のうち、32点。14科目については一切拡大教科書が発行されないということです。しかもその中で標準規格通りの4種類の拡大教科書が発行されるのは、三省堂の「SELECT Oral Communication 1」のたったの1点だけです。また、その他にレイアウト変更の拡大教科書が発行されるのは数研出版の「理科総合B 生物と自然環境のサイエンス」の18ポイント判だけということです。その他の30点のほとんどは判をただ単純にA4に拡大しただけで、フォントすら変更されておりませんので拡大コピーと同じということです。ちなみに全国には盲学校を含め特別支援学校には444名の弱視生徒が、通常の高校には118名の弱視生徒が拡大教科書を求めているということが文部科学省の実体調査で明らかになっています。

教科書バリアフリー法が施行され、2度目の新年度を迎えつつありますが、視覚障害教育の専門機関であり、多くの弱視生徒が在籍する盲学校でさえこのような状況ですので、いつになったら拡大教科書が全ての弱視児童・生徒の手元に確実に届くのか、不安視する声が上がっております。

我が国も批准を目指している国連障害者の権利条約には、「障害のある児童が障害を理由として無償のかつ義務的な初等教育から又は中等教育から排除されないこと、学問的及び社会的な発達を最大にする環境において、完全な包容という目標に合致する効果的で個別化された支援措置がとられること。」と規定されています。

国連障害者の権利条約に批准するためにも、また教育の機会均等を完全に実施するためにも教科書バリアフリー法を改正し、平成23年度からは義務教育及び視覚障害教育の専門機関である盲学校の高等部の採択教科書については拡大教科書の発行を義務化し、弱視児童・生徒が確実に拡大教科書が入手できるような学習環境の確立を要望いたします。通常の高等学校については国もしくは地方自治体において原本の検定教科書と拡大教科書の差額を保障するような制度をできるだけ早く創設すると共に、欧米諸国のように教科書データをXML化し、少部数でも拡大教科書が発行できるよう教科書データのone source, multi use化に向けた研究を開始していただけますよう要望いたします。

何卒よろしくお願い申し上げます。

(連絡先) 弱視者問題研究会 代表 並木 正 <<住所等省略>>