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日本弱視者ネットワーク
Network of Persons with Low vision

(旧称:弱視者問題研究会・弱問研)

2009年11月29日 文部科学大臣 川端達夫殿 弱視者問題研究会 代表 並木 正

要望書

日頃より視覚に障害のある児童・生徒の教育にご理解とご尽力を賜り厚く御礼申し上げます。また昨年6月には、「障害のある児童及び生徒のための教科用特定図書等の普及の促進等に関する法律」いわゆる「教科書バリアフリー法」を成立させていただきましたことに深く敬意を表します。

この教科書バリアフリー法の適用は今年度使用教科書からとなっておりましたので、全国の3200~3500名の弱視児童・生徒は今度こそ確実に拡大教科書が給与されるものと信じておりました。しかしながら、実際には全ての目の見えにくい子どもたちに適切な拡大教科書が給与されるという状況には至りませんでした。そこで、日本国憲法が定める教育の機会均等を完全に達成するためにも下記事項を改めて要望する次第です。

何卒ご検討の程、よろしくお願い申し上げます。

1.教科書出版社による義務教育段階の拡大教科書の発行について

2009年4月段階では、出版された拡大教科書は義務教育の検定教科書427点中154点でした。それでも2008年4月段階の69点と比べると倍以上になりましたので、有難いことなのですが、全体から考えるとまだまだ3分の1強という状況です。現にいくつかの拡大写本ボランティアからは今でも製作に追われ、悲鳴を上げているという訴えも聞いております。教科書バリアフリー法では、教科書出版社は文部科学省が定める拡大教科書の標準的な規格に基づく拡大教科書の発行に努めなければなりませんが、未だに1種類も拡大教科書を発行していない教科書出版社もあると聞いております。義務教育段階につきましては、保護者やボランティアの努力に左右されることなく、また弱視児童・生徒がどの学校に在籍しようとも確実に適切な拡大教科書が給与されるよう教科書出版社への指導をよろしくお願い致します。

2.盲学校高等部採択の拡大教科書の発行について

2009年3月30日に文部科学省拡大教科書普及推進会議より第二次報告が公表されましたが、その中に「高等学校段階における拡大教科書は、標準規格に適合する標準拡大教科書を小中学校段階と同様に提供するとともに、高等学校段階のより一層多様化したニーズにも応えられるように、単純拡大教科書も選択肢として、提供していくことが適当と考える。」と記述されています。しかしながら、4月の始業日に配布された拡大教科書は盲学校の高等部を含めて1種類もありませんでした。その後8月には原本を単純に拡大した拡大教科書は配布されましたが、重度の弱視生徒が真に希望する標準規格に適合した拡大教科書は配布されませんでした。そもそも教科書バリアフリー法では拡大教科書発行の努力義務の対象が小学校から高校までとなっており、また予算を投じて拡大教科書普及推進会議で何度も検討を重ねたにも関わらず、法の施行時までに高校の標準規格が定められていないことは法律の軽視と言わざるを得ません。また来年度からそのような拡大教科書が発行されるのか、未だに盲学校現場には衆知されておりません。単純拡大教科書につきましては極端なことを言えば、学校現場で拡大コピーすることもできますので、教科書出版社にはレイアウトを変更した拡大教科書の発行に取り組んでいただきたいと考えております。本来は一日も早く通常の高校も含め全ての弱視高校生の適切な拡大教科書を求めたいところですが、高校段階の検定教科書は983点もあるということですので、まずは視覚障害教育の専門機関であり、全弱視高校生の4割が在籍する盲学校で採択されている46点の教科書において拡大教科書を発行していただけますよう要望致します。来年度使用する教科書の需要数報告期限である11月末も近づいておりますので、迅速に教科書出版社をご指導いただき、どの教科において拡大教科書が発行されるのかをホームページ等で公表していただき、盲学校現場で混乱なく、弱視生徒のニーズに応じた教科書選択と需要数報告ができるようご配慮をお願い致します。

また、通常の高校に在籍する弱視生徒の拡大教科書の購入費の軽減につきましては、高校無償化の制度設計の中で実現していただけますようよろしくお願い致します。

3.将来の効率的で安定的な教科用特定図書の供給体制について

中・長期的な課題になりますが、障害のある児童・生徒の教科書を保障するためには検定教科書の他に拡大教科書、点字教科書、音声教科書、電子教科書などを選択肢として用意することが望まれます。しかも拡大教科書は数種類のラインナップが必要ですし、電子教科書もいくつかのファイルフォーマットから使いやすいものを選択するというような仕組みが理想的です。これを効率的且つ安定的に実現するのがOne Source, Multi Useという考え方であり、そのOne sourceがあらゆる媒体に転換しやすいXMLの電子データということになります。このような教科書データの提出が実現すれば、数種類の拡大教科書を比較的安価に発行することが可能になり、教科書予算の削減にもつながります。

まず、教科書出版社は見出しや本文、図表などの掲載情報を一定のルールに基づき構造化し、XMLデータを作成します。但し、この入力を支援するためのプログラム開発を行う必要があります。その後、そのデータを利用し、検定教科書や複数の拡大教科書などの編集を行います。ここでも紙媒体の教科書の編集を支援するソフトが必要ですが、構造化されたデータがあれば検定教科書のみならず複数の拡大教科書を編集することもかなり容易になります。点字については、プレインテキストを書き出し、点字出版所に提供することも可能です。電子教科書についてはhtmlやデイジー、テキストファイルなどの様々なニーズにもタグの変換などによって対応できるということになります。電子教科書は当面は障害のある生徒が先行的に使用することになるかと思いますが、将来的には一般の生徒にも供給できる可能性があると考えます。このように将来的なコスト削減も見据え、さまざまな教科用特定図書が効率よく、また確実に給与されるような制度を構築していただけますようお願い致します。

(連絡先) 弱視者問題研究会 代表 並木 正 <<住所等省略>>