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日本弱視者ネットワーク
Network of Persons with Low vision

(旧称:弱視者問題研究会・弱問研)

参議院 文教科学委員会 平成21年6月11日(木)

那谷屋正義君

それからもう一つ、拡大教科書問題について御質問をしていきたいというふうに思います。

これも理事会の方でお許しをいただいて、私が文科省の方に泣いて頼んで、この委員会で皆さんに回覧をさしてくださいということをお願いをしたものでございます。今、回覧さしていただいていますので、是非御覧おきいただければというふうに思いますけれども。

昨年、議員立法によって全会一致で教科書バリアフリー法というのが成立いたしました。教科書発行者自らが拡大教科書を発行することが、まあ義務ではなくて、一応努力義務として盛り込まれたわけであります。

この法律は今年度から使用される教科書に適用されることになっているわけでありますけれども、義務教育の検定教科書四百二十七点のうち新たに出版された拡大教科書は八十五点にとどまり、これまでに出版されていた六十九点と合わせると百五十四点、四百二十七点中の百五十四点ということで、全体の約三六%というふうなことになっています。

小中学校の通常学級に通う弱視の子供たちは、〇五年度で約千七百三十九人。これは、いろいろと見てもらって申し訳ないんですが、お配りしました資料二の方にも載ってございます。資料二の下の方ですね、千七百三十九人で、この年度に拡大教科書を実際に手にできた子供はこのうちの六百四人にすぎないということでございます。約三分の一強ということでしょうか。〇七年度の給与人数は六百十八人と、ほぼ横ばいの状態で推移しているわけであります。拡大教科書の約八割、これは真ん中の円グラフを見ていただければと思いますが、このピンク色のものがボランティア団体が作られているということで八一%、そして民間発行者が一三%、教科書発行者が六%という、こういうふうな今状況になっています。まさに、ボランティアの方々の骨身を削るような日々が費やされても、なおこういう現状になっているということであります。

大臣のお手元に今あるんでしょうか、国語の教科書で手書きの、これはボランティアの方が作られた教科書ですけど、手書きであります。これは字がうまいなということもありますけれども、本当に何というか、見ただけで心が何か安らぐ、そういう教科書になっています。あれは通常の教科書の三分の一になっていまして、実際には教科書の一冊分のあれの三倍の厚さになるという、そういうふうなものになっていますけれども、それだけ非常に時間と手間が掛かっているわけであります。そういう方たちに頼っているのが八割強ということになっているわけであります。

教科書バリアフリー法というものがせっかくできたにもかかわらず、その効力というのがまだまだだなというふうに思うわけでありますけれども、その原因は一体どんなところにあるのか、お考えをお聞かせいただければと思います。

政府参考人(金森越哉君)

障害のある児童及び生徒のための教科用図書等の普及の促進等に関する法律の成立を受けまして、できるだけ多くの弱視児童生徒が利用できる拡大教科書の標準規格を文部科学省として策定、公表し、これを教科書発行者などに周知することによって拡大教科書の発行を促しているところでございます。

こうした取組によりまして、御指摘ございましたように、平成二十一年度から新たに八十五点の小中学校の拡大教科書が発行され、教科書会社から発行される拡大教科書は、義務教育段階で計百五十四点となったところでございます。

ただ一方で、小中学校のいわゆる五教科、国語、社会、算数・数学、理科、英語といった五教科につきましても、まだ一部教科書発行者の教科書については拡大教科書が発行されてないものがございますし、図画工作や美術などの教科につきましては作成がなされておらないのが実情でございます。

このことにつきましては、拡大教科書の標準規格の策定が昨年の十二月でございまして、拡大教科書の製作に係る編集レイアウトの変更や教科ごとの特性などのノウハウなどがまだ教科書発行者に十分浸透していないことや、拡大教科書の作成には相当な労力と時間が必要であることなどがその原因として考えられるところでございます。

那谷屋正義君

今拡大教科書の五教科について云々という話がありましたけれども、実は図工とか美術といった主要教科以外の教科書で発行に踏み切った会社はいまだ出ずじまいという状況です。そして、高校の教科書についても、これまでも一点の発行もないままといういわゆる不名誉なゼロ更新、ゼロ記録を更新しているという、そういう状況であります。

いろんな理由があるんだろうというふうに思いますけれども、やはりまず子供たちの利益優先というものを先に考えるならば、作成に大きな困難が伴うからとか、あるいは時間を食う割には利用者が少ないとか、いわゆる教科書発行者への配慮に重きを置くやり方というものはそろそろ改めなければいけないというふうに思うわけであります。確かに、昨年の十二月からということで期間が短いと、だから今後は展望されるんではないかというふうな期待があるのかもしれませんが、しかしその一方で、向こう一、二年、二、三年の間にまた新たな学習指導要領に基づく教科書が発行される、どうせそこで変わるのであるならばというような考え方が仮に出てくるとすれば、これはとんでもないことで。それまでの二年、三年の間の子供たちの学習の権利を妨げることになるわけでありますから、そういう意味では、子どもの権利条約第三条でも、子供の最善の利益こそが第一に考慮されるべきというふうにうたっているわけですので、是非ここのところはしっかりと取り組んでいただきたいと思いますけれども、もう一度お願いいたします。

政府参考人(金森越哉君)

私どもといたしましては、教科書発行者による拡大教科書の発行を促進いたしますため、標準規格を策定し、教科書発行者への周知を行ってきたところでございます。

今後は、作成に係るレイアウトの変更や各教科ごとの特性など、拡大教科書作成のノウハウなどを伝える研修会などの開催を通じて、教科書発行者に対して標準規格の趣旨や内容を更に周知してまいりたいと考えております。

また、教科書発行者による拡大教科書の発行情報を教育委員会や学校に一層周知する取組を行い、教科書発行者による拡大教科書の発行を促していきたいと考えております。

こうした取組により、今後とも教科書発行者による拡大教科書の発行を促進するための必要な措置を積極的に講じてまいりたいと考えております。

那谷屋正義君

冒頭申しましたけれども、その教科書バリアフリー法の中で努力義務になっているというところ、ここが実は私は大きなネックなんだろうというふうに思うわけであります。これはもう完全に義務化するべきではないかというぐらい思うわけですね。しかし、今言われたように、様々な条件というか問題もある中で、やはり努力義務が現段階では妥当だろうということの中の法案の文なんだろうというふうに思いますけれども、それではこの問題はやはり先に進んでいかないというふうに思うわけであります。やはり現実に、例えば発行者側がどういうものをハードルと思っているのか、どういうことが問題になっていると思うのかというふうなことについて、真剣に文科省の方としてそこのところは解決に乗り出していかなければいけないんだろうというふうに思うわけであります。

例えば、就学時健康診断の際に、これは多く入学前の秋ごろ行われるわけですけれども、対象となり得る子供たちについて、拡大教科書の必要性や要望等を各設置者が把握をし、この時点でその給与人数等を確定し、そして教科書発行者に通知すれば、ある意味十分な作成期間も保証できるし作り損の弊害も最小限のものにできるのではないかと、こんなふうに思うわけであります。

ところで、そういう意味ではその就学時健診ということは新入生の需要予測しかできないわけですから、このニーズというものは。しかしそうはいうものの、中学卒業時までは少なくとも活用できるわけであります。そういうふうな努力あるいは知恵を出し合う中で、子供たちに必ず行き渡る方法を見つけるということ、この意欲が非常に大事ではないかと思います。

なお、この就学時健診の問題について、学校現場では、学校保健安全法の第十一条で規定されているわけでありますけれども、障害のある子供たちの差別、選別の場とならないよう取り組んでいることも是非この場で押さえておかなければいけないというふうに思うところであります。

当事者、子供や保護者の要望、意向等を尊重し、具体的な準備等を進めていくことは学校現場に求められている対応というふうに言えると思います。この観点から、拡大教科書についても正確なニーズ把握のための機会として活用することも可能ではないかというふうに一つの提言をしているところでありますけれども、いかがでしょうか。

政府参考人(金森越哉君)

拡大教科書の無償給与につきましては、障害のある児童及び生徒のための教科用図書等の普及の促進等に関する法律に基づき、都道府県教育委員会から拡大教科書の需要数の報告を受け、国が教科書発行者に対し発行の種類や部数の通知をする仕組みとなっております。

拡大教科書を無償給与するに当たりましては、御指摘のように必要とする児童生徒のニーズを正確に把握することは重要なことでございまして、都道府県教育委員会等に対して様々な機会を通じて指導するなど、引き続き正確なニーズの把握に努めてまいりたいと考えております。

就学時の健康診断を活用することにつきましては、新入生についてのニーズを把握するための参考情報の一つとなり得ると考えられますが、児童生徒のプライバシーに相応の配慮が求められますとともに、弱視の状態は就学後も変化する場合があることに十分留意する必要があると考えております。

いずれにいたしましても、拡大教科書の正確なニーズの把握のためには、学校や市町村、都道府県教育委員会などが密に連携して対応していくことが重要でございまして、引き続き指導を行ってまいりたいと存じます。

那谷屋正義君

仮に新学期を迎えて不要になってしまった拡大教科書というのが発生したときに、それをどうするか。私は、その分は文科省が責任を持って買い取る仕組みを講じるべきではないかというふうに端的に言わせていただきたいというふうに思います。これが無駄であるというようなことには決してならない、あるいは言えないのではないかというふうに思います。子供たちの間に横たわるいわゆる格差、不平等、権利侵害をなくすための費用に無駄という概念が私は入り込む余地など皆無ではないかというふうに思うわけであります。

〇七年度の実績額は約七千六百万円、これもお配りしました資料二をもう一度御覧いただけたらと思いますけれども、〇七年度は約七千六百万円です。これにかかわる給与人数の割合が大体全体の三分の一強といたしますと、七千六百万円の三倍で考えれば二億円ちょっとということで事足りる計算になるわけであります。この買取り制の導入を含めて、拡大教科書作成費確保に向けた決意をお聞かせいただきたいというふうに思います。

国務大臣(塩谷立君)

今日、この拡大教科書を拝見させていただきまして、大変なボランティアの方の努力ですばらしい教科書ができている、本当にうれしく思う次第でございますが、実際はまだ三分の一程度ということで、しかしながら、〇七年度が七千六百万ということで、これをしっかり予算も取ると同時に、やはりこの手間が相当掛かるということで、教科書発行会社に私どもとしてはいろんな形で今努力を促しているところでございますので、確実にすべての生徒に、要望にこたえることができるように積極的に今後取り組んでまいりたいと考えております。

那谷屋正義君

今日は大臣の顔が大変神々しく見えるのは気のせいかどうか分かりませんが、大変力強い決意を今いただいているところだというふうに思っております。

ボランティア団体では、拡大教科書を作成した際にマスターコピーを取っておきまして、同じ教科書の依頼があった場合はそのマスターコピーを利用して拡大教科書を作成しているというふうに伺っています。ところが、先ほど申し上げました新学習指導要領の全面実施になりますと、小学校では二〇一一年度、中学校では二〇一二年度からなるわけでありますが、全面実施に伴って使用される新しい教科書についてはマスターコピーが存在していません。ボランティア団体は、一からの作業となるために非常に負担が大きくなってございます。是非、必要な子供たち全員に拡大教科書を届けるためには、遅くとも新学習指導要領の全面実施の時点では、教科書発行者がすべての教科書について拡大教科書を必ず発行せざるを得ない具体的政策誘導策を準備すべきであることを強く要望をしておきたいというふうに思います。

さらに、拡大教科書というか、教科書バリアフリー法では、視覚障害というか、弱視の方だけでなくて、発達障害等も含め、障害のある児童生徒すべてが対象になっております。発達障害の児童生徒には、例えばマルチメディアDAISY化された教材が適しているというふうにも言われています。今後、発達障害等の子供たちに対する環境の充実に向けて、実際に効く、有効的な施策等をどう講じていこうと考えていらっしゃるのか、お考えをお聞かせいただきたいと思います。

政府参考人(金森越哉君)

障害のある児童及び生徒のための教科用特定図書等の普及の促進等に関する法律、いわゆる教科書バリアフリー法では、発達障害のある児童生徒が使用する教科用特定図書等の整備充実を図るため、必要な調査研究等を推進する旨が規定されております。これを踏まえ、文部科学省では、本年度から新たに、発達障害等の子供の障害特性に応じた教科書等の在り方やこれらの教育的効果などについて実証研究を行うことといたしております。

この調査研究事業では、先般、専門の委員による審査評価を経て、四つの団体を実施主体として選定したところでございまして、このうち東京大学先端科学技術研究センターでは、パソコンなどの支援技術を活用し電子化された教材の作成、教育課程との関連性の研究や協力校での実証研究を行うことといたしております。また、財団法人日本障害児リハビリテーション協会では、マルチメディアDAISY教材に主眼を置き、電子教科書の備えるべき機能の研究や教科書等の試作及び実証研究など行うことといたしております。

文部科学省といたしましては、これらの調査研究成果を踏まえ、発達障害のある児童生徒が教科学習における困難を克服し、障害の有無にかかわらず十分な教育を受けることができるよう、教材等の学習環境の整備を進めてまいりたいと考えております。

那谷屋正義君

是非お願いをしておきたいと思います。