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日本弱視者ネットワーク
Network of Persons with Low vision

(旧称:弱視者問題研究会・弱問研)

2008年4月10日

拡大教科書に関する文部科学省の国会答弁に対する弱視者問題研究会の見解

【教科書出版社の拡大教科書発行時期について】

文部科学省及び教科書協会は「新学習指導要領の完全実施に合わせ、小学校が平成23年度、中学校が平成24年度から拡大教科書を無償給与することが目標」としていますが、これはあまりにも弱視児童・生徒の声をないがしろにしていると言わざるを得ません。確かに教科書出版社とすれば、3、4年しか売れない現行の学習指導要領に基づいた拡大教科書を急いで発行するよりも、3、4年後にその次の学習指導要領改訂まで長く販売できる拡大教科書を発行する方がコスト面から言っても好都合でしょう。しかし、児童・生徒の学習や成長の中で1年1年はかけがえのないものです。平成20年4月に小学校に入学する児童は平成23年4月には4年生になっています。中学校に入学する生徒は平成24年度には既に中学校を卒業し、高校2年生になります。このような子どもたちの3年ないし4年間の学習というのはどうなるのでしょうか。果たして文部科学省という組織は誰のために何を目的として存在しているのでしょうか。たとえ少数でも障害のある子どもたちの視点に立って、問題を解決するのが教育行政をあずかる機関の役割なのではないでしょうか。

今日の日本の印刷技術は世界トップレベルにあると言ってもいいでしょう。データを入稿すれば、オンデマンド印刷によりたとえ1冊でも約2週間で納品される時代です。内容こそ違いますが、週刊誌や月刊誌は多くの文字や図版を含んだフルカラーのものが数多く発行されています。教科書については検定教科書出版社の手元にデジタルデータがありますので、専門家の編集協力があれば3、4年もかけなくても来年度の4月には全ての教科において拡大教科書が発行できると思います。

【弱視の見え方とボランティア依存について】

文部科学省はこれまで「弱視児の見え方は一人一人異なるので、ボランティアの方々に拡大教科書を製作してもらうのが最もよい」という見解を示してきました。確かに弱視の見え方は一人一人異なり、その支援のあり方も多種多様と言えます。しかし、その対応をボランティアに依存するというのは理屈になっておりません。これは公助と共助のあり方を取り違えていると思います。どちらがメインでどちらがサブであるべきでしょうか。認定就学制度があり、特別支援教育が始まっている今日、既にパンク状態にあるボランティアに更に依存するというような政策は理論的にも物理的にも無理があると考えます。私たちは、国もしくは教科書出版社がオンデマンド印刷を利用し、数種類の標準的な規格の拡大教科書を発行し、それでもニーズに合致しない一部の弱視児の拡大教科書のみをボランティアにお願いするというのが本来の拡大教科書供給のあり方だと考えております。よって、ボランティアに提供するデジタルデータのあり方を検討する前に、国もしくは教科書出版社による拡大教科書の発行を検討していただきたいと思います。

【拡大教科書の発行の義務化について】

文部科学省はこれまで「民間の出版社に拡大教科書の発行を義務化することはできない。」という見解を示してきました。しかし、言うまでもなく法律というのは、決して公の業務だけを規制しているわけではありません。交通バリアフリー法では、駅などにエレベーターやエスカレーターの設置を義務付けています。障害者雇用促進法では、一定規模以上の企業に1.8%の障害者雇用を義務付けています。その他にも多くの法律は、民間の業者に対する規制や義務を定めています。なぜ憲法違反とも言える今日の状況を改善するために拡大教科書保障を法律で定めることができないのでしょうか。このような状態で国内法より上位になる「国連障害者の権利条約」に批准できるのでしょうか。

それでも小坂前文部科学大臣や渡海文部科学大臣は、書簡という形で教科書出版社に拡大教科書の自社出版やデジタルデータの提供を要請して下さいました。しかし、そもそも障害児の教科書保障は大臣の要請とか出版社の自主性ということでしか解決できないのでしょうか。既に遠山元文部科学大臣が衆議院文部科学委員会で「いろいろな、どこでつくるかとか、どんなふうにつくるかとか、研究が必要な面もございますけれども、できるだけ早い機会に、できれば来年の四月から子供たちが親御さんの負担を経ないで適切な拡大教科書が使えるように、来年の春から弱視の子供たちの笑顔が見られるように、何とかしたいと思っております。」と答弁されてから4年10ヶ月が経過しています。一昨年に衆参の委員会で「拡大教科書の普及と充実」及び「高等学校の拡大教科書の自己負担軽減」という付帯決議が決議されて以来、1年10ヶ月が経過しています。小坂前文部科学大臣が書簡を出されてから1年9ヶ月、特別支援教育がスタートしてから1年1ヶ月が経とうとしています。しかし、事態はほとんど進展していません。

米国では、国立教材アクセスセンターを設立し、国が責任を持って障害児の教科書保障に取り組んでいます。川村元文部科学大臣は、平成16年5月の衆議院文部科学委員会において「これからも、やはり特に義務教育段階においては、憲法の精神にのっとりながら、児童生徒すべてに、国が最終的な責任を持って、そして適切な教育を受けられるように、教育環境の整備、きちっと努めてやりたい、このように考えております。」と答弁されています。

文部科学省はこの4月より拡大教科書の標準的な規格について検討を開始するということですが、この規格がまた拡大教科書の普及に結びつかず、絵に描いた餅に終わっては税金の無駄にもなります。検定教科書出版社52社全社に拡大教科書を発行してもらうためには、付帯決議や大臣書簡ではなく拘束力のある法制度化が必要と考えます。