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日本弱視者ネットワーク
Network of Persons with Low vision

(旧称:弱視者問題研究会・弱問研)

2007年4月5日 文部科学大臣 伊吹文明殿 弱視者問題研究会 代表  並木 正

要望書

弱視児童・生徒の学習環境の充実につきまして、日頃よりご理解とご尽力を賜り厚く御礼申し上げます。そこで、弱視児にとって必要不可欠な拡大教科書をすべての弱視児童・生徒に確実に手渡せるよう下記事項を要望いたします。何卒ご検討をよろしくお願い申し上げます。

1.小学校から高校段階までの安定的な拡大教科書供給体制の整備

昨年末の第165回国会では、教育基本法が改正され、第四条に「国及び地方公共団体は、障害のある者が、その障害の状態に応じ、十分な教育を受けられるよう、教育上必要な支援を講じなければならない。」という条文が新規に定められました。第164回国会で審議されました、「特別支援教育」の理念も「乳幼児期から学校卒業まで一貫して計画的に教育や療育を行う」というものでした。また、2006年7月27日付の小坂前文部科学大臣の書簡でも各教科書出版社に「拡大教科書の発行についてご検討をいただく」という文言があります。しかしながら、特別支援教育元年が始まろうとしている今日でも未だ教科書協会において検討が続いていると伺っております。

このような情勢の中、一日も早く確実に拡大教科書を供給するには、教科書に関する法律の改正も視野に入れ、検定教科書出版社に弱視児の多くのニーズに適合した拡大教科書(ゴシック体、22ポイント版)を発行していただくのが最善の解決策と考えます。そして義務教育段階に限らず、高等学校段階まで含め体制を整備する必要があろうかと存じます。現在、拡大写本ボランティアは小・中学校段階の拡大教科書製作に追われ、既にその応需能力を超えてしまっていますが、たとえ小・中学校段階の拡大教科書が出版社から発行されたとしても、ボランティアの労力が高校段階の拡大教科書製作にシフトするだけで、本質的な問題解決には至らないことが予想されます。学校教育法第21条、第40条及び第51条で小・中・高等学校に検定教科書の使用を義務付けている限り、検定教科書出版社に小学校から高校段階までの拡大教科書を発行していただき、ボランティアには発行される拡大教科書がニーズに合わない場合のみ拡大教科書の製作を依存するのが望まれる体制だと考えます。

しかしながら、2007年3月15日の参議院文教科学委員会において、文部科学省初等中等教育局長は教科書協会の拡大教科書の普及充実のための調査研究小委員会の検討状況として「具体的には、二十年度用に向けまして、今年の11月ごろまでに提供できる本文デジタルデータについて検討していこうということになってございます。需要の多い主要科目の書目について検討していこうということで、国語、社会、理科の順でデジタルデータの提供をやっていこうということになろうかというふうに伺っております。」と答弁されています。しかし、デジタルデータの提供だけでは、提供されたデジタルデータを誰がレイアウト編集し、最終的に教科書として印刷製本するのかという課題が残ります。米国では、教科書出版社から提出されたデジタルデータを国立教材アクセスセンター(National Instructional Materials Access Center)が拡大教科書の製作を担っていますが、日本にはそのような機関はありません。デジタルデータが提供された後、だれが責任を持って拡大教科書のレイアウト編集を行い、印刷・製本し、弱視児に手渡すのかという総合的な作業肯定を確立していただかなければ、安定的な拡大教科書供給にはつながりません。

また、どの教科が大切かというのは断定できないところもありますが、一般的には小学校では国語、算数、理科、社会、中・高段階では国語、数学、英語、更には理科、社会だと思います。なぜ国語、社会、理科なのか、しかも順番にというのはどういうことなのでしょうか。算数、数学、英語、音楽なども、国語、社会、理科と同様に需要が多いのが実情です。中途半端な解決にならないよう主要教科及び真に需要の多い教科の問題解決を同時に進めていただくよう要望します。

この拡大教科書問題が国会で取り上げられてから既に5年が経過しようとしています。遠山元文部科学大臣は2003年5月、参議院文教科学委員会において「学校教育の現場において、現に弱視である子どもたちが例外なく拡大教科書が使えるようにしていくというのは、私は行政の責任だと思っております」と、また、同年6月、衆議院文部科学委員会においては「いろいろな、どこでつくるかとか、どんな風につくるかとか研究が必要な面もございますけれども、できるだけ早い機会に、できれば来年の4月から、子どもたちが親御さんの負担を経ないで適切な拡大教科書が使えるように、来年の春から弱視の子どもたちの笑顔が見られるように、何とかしたいと思っております」と答弁されました。河村元文部科学大臣も2004年3月、衆議院文部科学委員会において「現時点については、ボランティア団体のご理解とご協力をお願いいたしておるところでございまして、当面そういう形で、今回、この制度、対応したわけでございます。しかし、本来的には、委員のおっしゃるとおり、学校において責任を持ってやる部分というのはたくさんあると思うんですね。そういう視点に立って、これにはきちっと対応できるように、今後どういう形でやっていくか検討しながら対応して参りたい」と、また同年5月には「これからも、やはり特に義務教育段階においては、憲法の精神にのっとりながら、児童生徒すべてに、国が最終的な責任を持って、そして適切な教育を受けられるように、教育環境の整備、きちっと努めてやりたい」と答弁されました。。中山元文部科学大臣も2004年12月、衆議院文部科学委員会において「教育の機会均等を保障するため、障害のあるなしにかかわらず、義務教育を受けている児童生徒すべてに対して国は最終的な責任を持っているものとも考えておるところでございます。今後とも、すべての児童生徒1人1人が十分に適切な教育を受けられるよう、教育環境の整備に努めて参りたい」と答弁されました。

子どもたちにとって一年一年はかけがえのないものです。これ以上問題が先延ばしにならないように、また歴代の大臣の国会における前向きなご答弁及び書簡が真に弱視児の学習環境整備につながりますよう願っております。日本の教育を担っている文部科学省として的確なリーダーシップを発揮していただき、弱視児にも教科書を読むという最低限の学習環境を一日も早く整えていただけますよう要望します。そして、平成20年4月には、全ての弱視児童・生徒が確実に拡大教科書を入手できますよう何卒よろしくお願い申し上げます。

2.高校段階における拡大教科書・点字教科書の費用負担

視覚に障害のある生徒が高校に進学した場合、高額な拡大教科書や点字教科書を自己負担しなければならないという状況は放置されたままです。第164回国会の参議院文教科学委員会の付帯決議では「就学奨励費等、障害のある子どもへの支援措置に関しては、高等学校の拡大教科書の自己負担軽減など、必要な具体的支援を把握しつつ、総合的な検討を進めること」、また衆議院文部科学委員会の付帯決議でも「その自己負担の軽減に努めるとともに、特に拡大教科書の普及と充実を図ること」という文言が盛り込まれました。しかしながら、平成19年度の概算要求では、教科書出版社のデジタルデータ提供を支援するための調査研究費は計上されたということですが、高校段階の拡大教科書や点字教科書の自己負担軽減については何ら予算要求がなされなかったということです。不景気は底を脱出したというものの、ご家庭によっては、通常の検定教科書の十数倍に及ぶ拡大教科書・点字教科書代を負担するというのは大変厳しいという現状もあります。このままでは憲法が定める法の下の平等や教育を受ける権利すら保障されないということにもなりかねません。既に鳥取県では高校段階の拡大教科書代についても県費による無償給与が始まっていますが、その他の46都道府県にも同様の措置を講じるようご指導をいただくか、国費による価格差補償などを創設していただくなど、不合理な地域間格差を解消し、憲法や教育基本法の精神が遵守されますよう要望いたします。つきましては、今夏には平成20年度に向け、高等学校の拡大教科書・点字教科書の自己負担軽減のための概算要求を上げていただきますようお願い申し上げます。

3.総合的な教材のバリアフリーに向けての施策

教科書以外の教材(副教材や参考書、問題集など)は著作権法上、拡大文字化する前に著作権者に許諾を得なければ作業に取り掛かれません。しかしながら、実際に小さなボランティアグループがその都度全ての作者や画家、写真家などに許諾を得るのはほぼ不可能であり、これが教材バリアフリーの大きな足かせとなっています。一方、子ども読書推進方第2条には「子ども(おおむね十八歳以下の者をいう。以下同じ。)の読書活動は、子どもが、言葉を学び、感性を磨き、表現力を高め、創造力を豊かなものにし、人生をより深く生きる力を身に付けていく上で欠くことのできないものであることにかんがみ、すべての子どもがあらゆる機会とあらゆる場所において自主的に読書活動を行うことができるよう、積極的にそのための環境の整備が推進されなければならない。」とあります。また、文字・活字文化振興法には、「文字・活字文化の振興に関する施策の推進は、すべての国民が、その自主性を尊重されつつ、生涯にわたり、地域、学校、家庭その他の様々な場において、居住する地域、身体的な条件その他の要因にかかわらず、等しく豊かな文字・活字文化の恵沢を享受できる環境を整備することを旨として、行われなければならない。」と書かれています。晴眼の子どもたちは参考書や問題集を本屋で買うことができますし、一般図書を読書する時は図書館で借りることもできます。しかし、視覚に障害のある子どもたちにとっては、参考書や問題集を入手した後にボランティアを探し、著作権許諾の手続きを済ませ、一文字一文字書き写してもらわなければ必要な拡大教材が入手できないという状況にあります。著作権法上の配慮も含め、抜本的な教材のバリアフリー化に向け、総合的な施策の検討に着手していただけますようお願い申し上げます。