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日本弱視者ネットワーク
Network of Persons with Low vision

(旧称:弱視者問題研究会・弱問研)

2006年9月14日 文部科学大臣 小坂憲次殿 弱視者問題研究会 代表  並木 正

要望書

弱視児童・生徒の学習環境の充実につきまして、日頃よりご理解とご尽力を賜り厚く御礼申し上げます。弱視児のための拡大教科書につきましては、大臣自ら教科書出版社に対し、拡大教科書の発行またはデジタルデータの提供を要請する書簡を発出していただき、重ね重ね感謝申し上げます。そこで、拡大教科書を必要とするすべての弱視児童・生徒にそれぞれのニーズに合った拡大教科書が確実に手渡るよう下記事項を要望する次第です。何卒ご検討をよろしくお願い申し上げます。

1.高校段階も含めた拡大教科書の発行

大臣の書簡でも各教科書出版社に「拡大教科書の発行についてご検討をいただく」という文言がございますが、教科書課によりますと、検討を要請しているのは小・中学校段階のみで、高校段階はデジタルデータの提供は要請しているが、拡大教科書の発行は検討を依頼していないということでした。理由は、教科書の無償給与制度は義務教育のみであるからということですが、拡大教科書の供給体制の整備は費用負担の問題とは異なります。有償無償に関わらずニーズのある子どもに確実に拡大教科書を供給できるようにすることがまず求められていると思います。先の国会で審議された「特別支援教育」の理念は「乳幼児期から学校卒業まで一貫して計画的に教育や療育を行う」というものでした。また、障害者基本計画には「後期中等教育及び高等教育への就学を支援するため、各学校や地域における支援の一層の充実を図る」とあります。また現在、拡大写本ボランティアは小・中学校段階の拡大教科書製作に追われ、既にその応需能力を超えてしまっていますが、たとえ小・中学校段階の拡大教科書が出版社から発行されたとしても、ボランティアの労力が高校段階の拡大教科書製作にシフトするだけで、本質的な問題解決には至らないことが予想されます。学校教育法第21条、第40条及び第51条で小・中・高等学校に教科書の使用を義務付けている限り、国または検定教科書出版社に拡大教科書を発行していただき、ボランティアには発行される拡大教科書がニーズに合わない場合のみ拡大教科書の製作を、または副教材や参考書、問題集の拡大版の製作を依頼するのが望まれる体制だと考えます。子どもたちにとって一年一年はかけがえのないものであり、弱視児もほとんどが高校に進学している状況があります。これ以上問題が先延ばしにならないように、また大臣の国会における前向きなご答弁及び書簡が真に弱視児の学習環境整備につながりますよう今一度、ご英断を賜りたく、何卒よろしくお願い申し上げます。

2.高校段階における拡大教科書・点字教科書の費用負担

上記の供給体制整備とは別に、視覚に障害のある生徒が高校に進学した場合、高額な拡大教科書や点字教科書を自己負担しなければならないという状況は放置されたままです。先の国会の参議院文教科学委員会の付帯決議では「就学奨励費等、障害のある子どもへの支援措置に関しては、高等学校の拡大教科書の自己負担軽減など、必要な具体的支援を把握しつつ、総合的な検討を進めること」、また衆議院文部科学委員会の付帯決議でも「その自己負担の軽減に努めるとともに、特に拡大教科書の普及と充実を図ること」という文言が盛り込まれました。しかしながら、今年度の概算要求ではデジタルデータ提供を支援するための調査研究費は1500万円計上されたということですが、高校段階の拡大教科書や点字教科書の自己負担軽減については何ら予算要求がなされなかったということです。不景気は底を脱出したというものの、ご家庭によっては、通常の検定教科書の十数倍に及ぶ拡大教科書・点字教科書代を負担するというのは大変厳しい状況もあります。このままでは憲法が定める法の下の平等や教育を受ける権利すら保障されないということになりかねません。既に鳥取県では県費による無償給与が始まっていますが、その他の46都道府県にも同様の措置を講じるようご指導をいただくか、国費による価格差補償などを実施するために早急な予算要求をお願いしたいと存じます。

3.総合的な教材のバリアフリーに向けての施策

大臣の書簡の別添にもボランティア団体の意向として「新たに、副教材・参考書・問題集等の拡大教材の製作に着手することが出来る」という文言を盛り込んでいただきましたが、拡大教科書以外の教材は拡大文字化する前に著作権者に許諾を得なければ製作に取り掛かれないことになっています。しかしながら、実際に小さなボランティアグループがその都度全ての作者や画家、写真家などに許諾を得るのはほぼ不可能であり、これが教材バリアフリーのおおきな足かせとなっています。一方、子ども読書推進方第2条には「子ども(おおむね十八歳以下の者をいう。以下同じ。)の読書活動は、子どもが、言葉を学び、感性を磨き、表現力を高め、創造力を豊かなものにし、人生をより深く生きる力を身に付けていく上で欠くことのできないものであることにかんがみ、すべての子どもがあらゆる機会とあらゆる場所において自主的に読書活動を行うことができるよう、積極的にそのための環境の整備が推進されなければならない。」とあります。また、文字・活字文化振興法には、「文字・活字文化の振興に関する施策の推進は、すべての国民が、その自主性を尊重されつつ、生涯にわたり、地域、学校、家庭その他の様々な場において、居住する地域、身体的な条件その他の要因にかかわらず、等しく豊かな文字・活字文化の恵沢を享受できる環境を整備することを旨として、行われなければならない。」と書かれています。晴眼の子どもたちは参考書や問題集を購入したければ、本屋で買うことができますし、一般図書を読書する時は図書館で借りることもできます。しかし、視覚に障害のある子どもたちにとってはボランティアに依頼し、ボランティアが著作権許諾の手続きを済ませ、一文字一文字書き写さなければ適切な教材が入手できないという状況にあります。著作権法上の配慮も含め、総合的な教材のバリアフリー化に向け、政策の検討に着手していただけますようお願い申し上げます。