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日本弱視者ネットワーク
Network of Persons with Low vision

(旧称:弱視者問題研究会・弱問研)

2003年10月26日 文部科学大臣 河村建夫殿 弱視者問題研究会 代表 並木 正 全国拡大教材製作協議会 会長 土屋 宏

弱視児の学習環境に関する要望書

弱視児の学習環境の充実につきまして、日頃よりご理解とご尽力を賜り心より感謝申し上げます。また第156回国会におきまして、拡大教科書に関する著作権法を改正され、その後も拡大教科書の無償措置にご努力いただいていることに深く敬意を表します。しかしながら、全ての弱視児が例外なくその障害に合わせた適切な拡大教科書を手にするには、まだいくつかの問題が残されています。

つきましては、全ての児童・生徒が平等に教育を受けられるよう、以下の点を要望する次第です。ご検討をよろしくお願い申し上げます。

尚、誠に勝手ながら、この要望書に対するご回答を11月25日までに下記返信先まで文書でいただけますようお願い申し上げます。

1.拡大教科書出版及び供給体制の充実

盲学校の小・中学部の主要教科以外や高等部においては拡大教科書がありません。点字を使用する児童・生徒が小学部から高等部まですべての教科で点字教科書が与えられているのに比べ、格差が生じています。また、弱視学級や通常の学級に通う弱視児は1,200名を超えると言われていますが、盲学校採択教科書と異なる場合が多く、出版されている拡大教科書が利用できるのは一部に限られます。

つまり、盲学校の児童・生徒のために出版されている拡大教科書の種類は検定教科書の中のほんの一部で且つ文字サイズ・フォントも限られているため、多くの拡大教科書は製作をボランティアに依存しているのが現状です。しかし、拡大写本ボランティアの多くは首都圏に偏在し、その人数も限られていることから、拡大写本を希望しても入手できなかったり、ボランティアとのつながりがないため、依頼すらできない弱視児が多数いるのが実情です。

今後、より多くの拡大教科書が安定的、且つ継続的に発行されるよう原本教科書出版社に拡大教科書の出版を義務付けるなどの制度構築が望まれます。現に光村図書出版株式会社は自ら拡大教科書を発行されております。

「今後の特別支援教育の在り方」には、「障害のある子どもの教育の新たなシステムづくりや制度の再構築を目指すという点で、新しく、大きなチャレンジであり、このためには行政や学校はもちろん、家庭や地域社会においても意識改革が必要である。チャレンジがなければ成果もないことを肝に銘じて、教育に関わる者全員が協力して障害のある子どもに対する新しい教育の姿を切り拓いていくことを強く期待する。」と書かれています。特別支援教育を推進する上でも、障害のある児童・生徒にはその子のニーズに合わせた適切な教科書が供給されるべきであると考えます。

現在、盲学校や弱視学級においては、保護者がボランティアを探し、拡大写本の製作を依頼し、学校を通してそれを教科書として利用する旨を教育委員会に申請し、それが許可されれば「107条図書」として無償で給付されるという制度になっています。また、通常の学級に通う弱視児のための拡大教科書無償措置も同様の制度が検討されています。これではボランティアとのつながりがなければ拡大教科書は入手できませんし、申請・許可手続が滞れば、拡大教科書は無償にはなりません。遠山前文部科学大臣が国会で「学校教育の現場において、現に弱視である子供たちが例外なく拡大教科書が使えるようにしていくというのは、私は行政の責任だと思っております。」と答弁されました。

今回の著作権法改正や無償措置の趣旨を踏まえ、弱視児が必要とする拡大教科書が安定的かつ継続的に作られ、保護者やボランティアの努力に左右されず、全ての弱視児が例外なく拡大教科書が選択でき、それが供給されるような体制を整えていただけますよう要望致します。

2.ボランティア支援と「107条図書」認定に関する規制緩和

出版社自らが弱視児一人一人のニーズに合わせた拡大教科書を提供されることが理想の姿かと思われますが、その体制・環境が整えられるまでの間は、ボランティアに依存せざるを得ないと考えます。ボランティアに依存する状態が続く限り、特にボランティア不在地域を中心に必要なボランティアの育成とボランティアの負担を軽減できるよう教科書出版社に対し、原本教科書とその電子データの提供を義務付ける必要があると考えます。

先に文部科学省より盲学校や弱視学級に在籍する弱視の小・中学生に対して、学校教育法第107条に則り、ボランティアが製作した拡大写本も「107条図書」と認定し、無償で給付するという方針が示されています。しかし、その条件の中に、前年8月末までとされる申請期限や当年4月までとされる納品期限があります。これらの条件は、ボランティアが原本教科書を前年11月(下巻については当年5月)まで入手することが困難な現状、製作に通常約3~4ヶ月、場合によってはそれ以上の期間がかかる実態、卒業学年の多くの弱視児が2月前後に進学先を決めてから教科書が決まる現状等を考えれば、ほぼ不可能な条件と考えます。

望ましい供給体制が整うまでの間、「107条図書」認定の申請期限は前年度8月末ではなく、当年の3月末までとし、拡大教科書の供給も児童・生徒の学習に滞りがないように供給するというような規制に緩和していただけますようお願い申し上げます。また、契約手続・書類につきましてもボランティアにとってより現実的で簡便なものにしていただけますよう要望致します。

3.高等学校での価格差補償

通常の小中学校に通う弱視児の拡大教科書代は公費で負担される道が開けつつあります。しかし、高校段階において検定教科書の十数倍にも及ぶ拡大教科書代を自己負担する現状は残されたままです。「障害者基本計画」には「後期中等教育及び高等教育への就学を支援するため、各学校や地域における支援の一層の充実を図る」と記されています。また、「今後の特別支援教育の在り方」でも障害のある子ども一人一人のニーズに応じたきめ細かな支援を行うため、乳幼児期から学校卒業まで一貫して計画的に教育や療育を行う」と書かれています。高等学校段階での不平等な教科書代は、差別を禁じた「国連子どもの権利宣言」、「国連子どもの権利条約」、「日本国憲法」に抵触するとも考えられます。高校段階での拡大教科書も検定教科書代を超える費用に対して国が価格差を補償していただくよう要望致します。

4.文書による通知

文部科学省教科書課から、ボランティアが製作する拡大教科書の「107条図書認定」について各都道府県の特別支援教育担当の指導主事に7月中旬に口頭でのみ説明されたとのことですが、各学校現場には十分伝わりきれていないようです。実際、申請を受け取った教育委員会も少数に留まったと伺っております。各学校やボランティア団体にも制度の内容や手続きが間違いなく伝わるように文書で通知していただけますようお願い致します。

ボランティアと行政の連携にも不十分なところが見られますので、今後は各教育委員会に加え、一方の当事者となる利用者団体、ボランティア団体に対しても文書でご連絡いただけますようお願い致します。

就学奨励費に関する書類の中の「学用品購入費」内の項目に記されている拡大教材費に関する記述も誤解が生じないように「教科用図書」の項目の中で適切に記述していただくようお願い致します。

また、現在制度設計が進められている通常の学級に通う弱視児のための拡大教科書無償措置についても誤解が生じないように文書で各教育委員会、当事者団体、ボランティア団体に通知していただくよう要望致します。

5.その他の教材の拡大文字化に関する施策・実施

子どもの読書活動の推進に関する法律の第2条に「すべての子どもがあらゆる機会とあらゆる場所において自主的に読書活動を行うことができるよう、積極的にそのための環境の整備が推進されなければならない。」また、第3条に「国は、子どもの読書活動の推進に関する施策を総合的に策定し、及び実施する責務を有する。」とあります。弱視児が自立し、社会参加していくためには、教科書に限らず副教材や学習参考書、一般図書など学習上必要な書籍の拡大文字化が必要と考えます。著作権許諾や製作体制など多くの課題がありますが、今後の弱視教育の充実のために計画的に施策を策定し、実施していただけますよう要望致します。

(返信先)弱視者問題研究会 代表  並木 正 <<住所等省略>>