次に、いわゆる拡大教科書について幾つかお伺いしたいと思います。
これにつきましては昨年の通常国会において、衆議院を始めこの委員会でも取り上げられて、そのとき大臣も、最近になってこの問題の所在について認識をした、それで、できるだけ早く良い方向を見付け出したいというふうに御答弁されておりましたし、また初中局長も、一番望ましい形を考えていきたいということで、昨年の四月以降、文化庁の方に初中局長名で著作権改正の要望についてという通知を出され、そして今回の改正案に入れられたということで、私は大変良かったなというふうに本当に思っております。今回のこの法改正は、この点だけでも大変国民は皆さん喜ばれると思いますので、文科省からの要請を受けて文化庁が今回入れられたことに対しては、私は心から感謝申し上げたいと思います。
ただ、文科省の方では、昨年の四月のこの委員会での議論以降、教科書制度の見直しも含めて文部科学省としてどのような検討が行われてきたのか、今回の改正に至るまでの検討の経緯をちょっとお伺いしたいと思います。
拡大教科書を作成する場合、一番大きな問題は、著作権についての許諾の問題があるわけでございまして、これにつきまして、すべての著作権者を探し出し、許諾を得るということは極めて大きな負担となっておりますことから、文部科学省といたしましては、まず、その許諾手続を簡便にするためにボランティア団体と著作者の団体との間における包括的な契約をあらかじめ締結することができないかと、そういうことで検討をずっとしてまいったわけでございます。
しかし、すべてのボランティアを組織化することが困難でございますし、また、すべての著作権者が著作権関係団体によって網羅されているわけではないわけでございますので、そうした事情から今申し上げたようなシステムを構築することが極めて困難であるという私どもとしての結論に至ったわけでございまして、それを受けて昨年の十月に、この拡大教科書の作成、利用に係る著作権法の一部改正の検討を、教科書を担当する局として文化庁にお願いを申し上げたところでございます。
検討の最初がやっぱりボランティアが作成する場合というふうに、前提としてボランティアの方たちが現状作成していらっしゃるので、それをしやすくするにはどうするかという検討がされたということで、これについては後で意見を私も述べたいと思うんですが、実質的にこの弱視の子供さんたちに対する教科書給付、いわゆる拡大教科書というものが盲学校や特殊学級においては検定教科書に代えていわゆる百七条教科書として無償給付をされております。
今日、お手元に資料をお配りさせておりますけれども、今、「視覚障害児の教科書の実態」ということで、これは弱視者問題研究会の方が作られたものなんですけれども、点字教科書はこういうふうに文科省が発行して無償、それから拡大教科書の中にも小学校、中学校で一部発行されているものについて無償となっています。それから、弱視学級の分と一般校の通常学級に通っている子供さんたちの分については発行がされていないわけです。ここの分をボランティアの方たちが一人一人の子供のニーズに合わせて作られているわけですけれども、この通常学級に在籍している子供さんが文科省の推定では約千人ほどいらっしゃるというふうに聞いているんですけれども、昨年の学校教育法施行令の一部改正で、特別の場合という言葉が付いていますけれども、弱視児でも条件が整えば通常の学級に就学することが法的に可能となっていますので、今後も増えていくと思うんですね。
ところが、この通常学級に通っている弱視の子供さんたちについては無償給付の対象にならないわけですね。ですから、この通常学級に通う子供さんたちの拡大教科書も無償給付すべきであるというふうに私は思うんですけれども、その点についてはいかがでしょうか。
現状は、委員御指摘のとおり、小中学校の通常の学級におきましては検定教科書を主たる教材として授業が展開されておるところでございまして、視覚に障害のある児童生徒が在籍している場合でありましても、他の児童生徒同様に検定教科書を無償しているわけでございます。
そういう意味で拡大教科書は無償給付はされていないわけでございますけれども、御指摘の問題につきましては、通常の学級と特殊学級の関係などに深くかかわる問題でございます。今後、特別支援教育の在り方を検討していく中でこの問題につきましても検討してまいりたいと考えております。
検定教科書はもちろん通常学級に行っている弱視の子供さんにも配られているけれども、それでは学習できないということで、本当に、今日、私はボランティアの方たちが作られたいわゆる拡大写本といいますか、拡大教科書というものをお借りしてきたんですけれども、ちょっと回させて、回していいですかね。皆さんにも是非見ていただきたいと思います。
本当にこういうふうにして手書きで作られているわけですね。一人一人の子供さんの視力に合わせて大きさを変え、大変な御苦労の中で作られているわけです。ですから、この一冊作るのに一万五千円から二万円というようなお金、人件費ではなく掛かっているわけです。こういった現状、ボランティアに頼っている現状を何とかするためには、私はやっぱり本来教科書というものは無償である、それから義務教育は無償であるという憲法の規定から考えると、非常におかしなことであるというふうに思うわけですね。
今回の改正に合わせて是非ともそこまでいっていただきたかったんですけれども、そういっていないので、それは要望としておきますけれども、この普通学級に行っている子供さんたちの拡大教科書、こういった教科書は教科書として認められていないので、実際には保護者負担になっているわけです。先ほど言いましたように、一万五千円から二万円というふうな膨大な費用が保護者に負担となっているんですけれども、この購入費について国が何らかの支援をするということは考えられますでしょうか。
それは普通学級の話ということでございますね。それにつきましては、先ほど申し上げましたように、無償給付の問題についてのお尋ねがございまして、先ほども申し上げましたとおり、私ども特別支援教育の在り方を検討していく中で検討してまいりたいと思ってございますので、そういうことで御理解をいただきたく思います。
これもまた先ほどと同じですが、いつまでこんな状態を続けていくのかと。当事者の子供さんや保護者の方たちは、本当にこの同じ日本の国に生まれてきて、そして同じ子供が一方では無償給付で六年間義務教育として受けられると、一方では使えない教科書を無償でくれて、そして本当に欲しい教科書は膨大な保護者負担のままに置かれているということは、こういう状況は決してよくないと思いますので、早急に検討して、特別支援教育と名前変わりましたけれども、その在り方の中で早急に結論を出していただきたいと思います。
次に、でも、とはいえ、具体的に今実際ボランティアの方たちに頼っているわけですから、そのボランティアに対する財政的な支援についてお伺いしたいと思います。
今回の改正案では、拡大教科書の作成に当たっては、ボランティア等の非営利、無料譲渡の場合には著作権者への補償金は不要というふうにされていますので、これは本当にいい措置だなというふうに思っています。しかし、先ほど言いましたように一万五千円から二万円も掛かるという、しかも一人の子供さんの、例えば高校でいえば、三年間考えると十何万かな、具体的な数字もお聞きしたんですけれども、十三万幾ら掛かるんですね、教科書代だけで。しかも、それを一年にならすと四万幾らというふうに掛かるわけですけれども、もう一歩踏み込んで、このボランティアの皆さんに対する拡大教科書の作成費、作成費用等への支援ということで、何とかこの単価を下げるとか作成がしやすいようにというような支援も必要であると考えますけれども、いかがでしょうか。
弱視の児童生徒につきましては、視力が同じでも見え方が様々でありまして、児童生徒一人一人の見え方に対応した適切な指導方法それから教材ということが工夫されることが必要であるわけでございます。
学校現場におきましては、教材の一部が保護者や先ほどお話がございましたボランティアの御協力によって作成され、実際に使用されているところでございまして、文部科学省といたしましてもこうした活動をできるだけ支援してまいりたいと考えているところでございます。
このことにつきましては、従来より、ボランティアの作成する拡大教材につきましても特殊教育就学奨励費によります教材購入費の補助の対象となっているわけでございます。また、今回の法改正におきましては、先ほどお話がございましたように、著作権の手続が簡略化され、拡大教科書を作成する上での負担が大幅に軽減されるということになると考えておるわけでございますし、さらに、盲学校におきましては拡大教材制作のための設備等の充実が図られてまいっております。
今後、盲学校とボランティアの相互連携を充実するために、弱視の児童生徒のための教育の充実に資する、そういうネットワークの構築について、現在、全国盲学校長会と連携を密にしながら検討を進めてまいっていると、そういう状況にあるわけでございます。
今、就学奨励費として出ていて、それが実質的にはボランティアの方たちへの支援になっているのではないかというふうにおっしゃいましたけれども、それはそれでいいんですが、文科省の方にお聞きしますと、この就学奨励費の中の学用品購入費という中に入っているらしいんですが、それは盲学校の子供さんに対しては年間一万円、それから特殊学級の子供さんには年間五千円というふうな金額になっていますので、とても到底これだけでは足りないと思いますから、是非とも、今おっしゃったように、ボランティア団体の方たちと緊密な連携を取りながら、その御要望を聞いていただいて、ボランティアに対する財政的支援、今後とも検討していただきたいということをお願いしたいと思います。
それから、今度は作成に当たっての具体的な制度的な支援なんですけれども、この教科書を作成しているボランティア団体の方々からお聞きしたところ、実際、作るのに必要な原本が入手できるのが非常に遅くなると作るのに大変な手間が掛かるということで、原本入手を是非とも早期にできるように取り計らっていただきたいということと、それから、例えばこれはスイスの例なんですけれども、スイスでは一つの教科書に対して音声データがこういうふうに付いていまして、それから拡大のデータもこれデジタルデータとして付けられて、それから点字データというふうに、こういったものがデジタルデータとして教科書会社から教科書を発行するときに同時に出されているというふうなこともお聞きしています。こういうものがあれば、一つ一つ手書きでするとか、あるいは拡大をコピーして張り付けてというようなことをしなくても済むようになるわけですね。
ですから、そういうボランティアが作成しやすいような制度的な支援といいますか、具体的な支援を是非とも当面のこととしていただきたいと思うんですけれども、その点についてはいかがでしょうか。
御指摘の点につきましては、私どもといたしましても、それぞれの教科書発行者がそれぞれの事業に支障のない、支障の生じない範囲でボランティア団体等の拡大教科書の作成に協力していただきたいと考えているところでございます。
ただ、具体的にどのような協力を行うかにつきましては、教科書発行者も、これは民間の企業でありますから、あくまでも教科書発行者の自主的な判断に基づいてなされるべきものでありますが、私どもといたしましては、ボランティア団体の果たす役割の重要性にかんがみまして、従来から各教科書会社に、教科書発行者に協力をお願いしているところでございます。
その中では、例えば、検定決定後見本本ができた段階で速やかに見本本の提供を行うこと、また見本本の無料提供の可否についても検討していただきたいということ、それから先ほど御指摘がございましたけれども、デジタルデータの提供の可能性についても検討していただきたいといったようなこと等々につきまして、教科書発行者に私どもとしてもお願いをし働き掛けているところでございますが、今後とも引き続き教科書見本本の早期提供など可能な範囲で協力を行うように私どもとしても働き掛けてまいりたいと思います。
本来やっぱり私は、これはこの拡大教科書も検定教科書として認められればこんな問題は全部一挙に解決すると思うんですね。検定教科書として認められない理由がよく私には分からないんですけれども、例えば点字教科書は百七条本として認められているということですので、聞くところによりますと、拡大教科書だとレイアウトが変わるということで、編集の、何といいますか、検定された教科書と違うものになってしまうということで認められないというふうに聞きます。
確かに、レイアウトが変わると、検定の中では、文字のポイントとかレイアウトも含めて検定されるということは私もよく承知しているんですが、この拡大教科書の場合は、そういう別の意図があるのではなくて、何といいますか、本当に必要な子供さんたちの視力に合わせた教科書ということで作られる教科書ですので、是非とも百七条本として認めて、そして無償給付ができるように早急にやっていくことが憲法が要請する義務教育の無償、それから教育基本法の教育の機会均等という観点からも必要だと思うんですけれども、その点についてはいかがでしょうか。
これは、もちろん百七条本には当然、各学校が採択すれば、各教育委員会あるいは各学校が採択すれば百七条本になるわけでございますが、それが直ちに検定教科書にはならないわけでございまして、そのことにつきましては、今、委員が少しお触れになりましたけれども、内容的にかなり変わるわけでございます。その証拠に、私ども、拡大教科書を作る場合、単純に言わば検定教科書を翻訳するといったようなこと
では内容的には十分きちんとしたものができないわけでございます。そのために、私ども、例えば国立特殊教育総合研究所で拡大教科書の在り方はどうあるべきかということをかなり専門的に研究しないと拡大教科書の内容として定まらないわけでございます。そういう難しい面もあるわけでございますので、そういう意味で直ちに、検定を経ないで直ちに検定教科書と同様に扱うというのは、これはなかなか難しいということについては御理解をいただきたいと思います。
いや、現状はいかにボランティアの方たちが御苦労なさっているか、そしてまた弱視の子供さんを持っている親御さんの保護者負担がいかに大きいかという現状については私もるる申し上げましたのでお分かりいただいたと思います。
非常に硬直した検定の在り方というふうに私は受け止めたんですけれども、やっぱりそこは是非とも早急にこの問題を解決していただきたい。今回の著作権法の改正では本当にちょっとだけといいますか、一歩前進だというふうには私も思います。でも、これでは決して問題は解決していないし、相変わらずボランティアの方たちが御苦労なさってやらなければいけないという、その現状を是非とも文科省としては認識をしていただきたいというふうに思います。
最後に、大臣、この件について御決意をお願いいたします。
この問題は、昨年の委員会、衆参におきまして御議論いただきまして、私も大変大事な問題だと考えております。そして、今回の著作権法の法改正は、この問題に取り組んでいる方々にとって一つの大きな福音であることは確かでございます。しかし、それを更に学校教育の現場において、現に弱視である子供たちが例外なく拡大教科書が使えるようにしていくというのは、私は行政の責任だと思っております。その角度から、子供たちにとって最もいい方法でこの問題を解決をしていく必要があると私は思っております。
初中局長は、言葉を選びながら、いろいろ検討していくと。あれだけ言っているということは、相当検討するということだと私も思っておりまして、この法律が施行日を迎えるのが来年の一月一日でございます。一月一日が施行日でございまして、このことを考えますと、施行日ないし来年度に向けまして、できるだけのことをしていきたいと私は考えております。
そのことが日本の大事な子供たち、弱視であっても、私は、十分世の中で活躍してもらうことができるわけでして、そういう子供たちにとって本当の意味の福音になるようにしていきたいと思いますが、その方法論につきましては若干お時間をいただきたいと思います。
しかしながら、その御指摘の点については、私は十分この問題についての大事なポイントであるというふうに承っております。
大臣の今、弱視の子供たちが例外なくこういった教科書が行き渡って学べるような環境を作りたいという言葉、それから文科省として局長が検討する検討するとおっしゃっていただいたので、それは本当に前向きな検討だというふうに大臣からもおっしゃっていただきましたので、是非その方向でやっていただきたいと思います。
ありがとうございました。よろしくお願いします。