日本弱視者ネットワーク ロゴ画像

日本弱視者ネットワーク
Network of Persons with Low vision

(旧称:弱視者問題研究会・弱問研)

2001年9月11日 初等中等教育局 特別支援教育課 課長殿 文化庁 著作権課 課長殿

要望書

弱視者問題研究会 代表  本多和弘

拝啓 時下益々御清祥のこととお慶び申し上げます。

さて、昨年来拡大教科書に関して協議の場を設けていただいておりますが、次回におきましては文化庁著作権課と共に著作権に関わる課題について協議する場を設けて頂けるよう要望致します。御多忙とは存じますがよろしくお願い申しあげます。

敬具

《協議事項》
著作権問題

現在は光村図書が国語、(株)大活字が算数、日本ライトハウスが数学の拡大教科書を出版しているが、著作権の問題が大きな壁となっている。その説明のために、下記に一般の教科書に関する著作権法を引用する。

著作権法第三十三条(教科用図書等への掲載)
公表された著作物は、学校教育の目的上必要と認められる限度において、教科用図書(小学校、中学校又は高等学校その他これらに準ずる学校における教育の用に供される児童用又は生徒用の図書であって、文部大臣の検定を経たもの又は文部省が著作の名義を有するものをいう。)に掲載することができる。
二 前項の規定により著作物を教科用図書に掲載する者は、その旨を著作者に通知するとともに、同項の規定の趣旨、著作物の種類及び用途、通常の使用料の額その他の事情を考慮して文化庁長官が毎年定める額の補償金を著作権者に支払わなければならない。

この法律は、教科書出版社が教科書を発行する際には、原作者に定められた補償金を支払うことにより、許諾を得なくても掲載することができるということを意味している。これにより、多くの著者が書いている教科書が比較的安価で容易に作成できるようになっているのである。しかし、点字の教科書(小学部の4教科、中学部の5教科を除く。)や拡大教科書は法的に教科書としては認められていない。ここで、下記の学校教育法を引用する。

学校教育法代百七条
高等学校、盲学校、聾学校及び養護学校並びに特殊学級においては、当分の間、第二十一条第一項(第四十条、第五十一条及び第七十六条において準用する場合を含む。)の規定にかかわらず、文部大臣の定めるところにより、同条同項に規定する教科用図書以外の教科用図書を使用することができる。

この法律は適切な教科書がない場合には、一般図書を教科書として採択することができるということを意味している。これにより、点字教科書や拡大教科書は盲学校において教科書として扱われているのである。しかし、ここで点字教科書と違い、拡大教科書で作成上に大きな壁が生じることになる。ここで下記の著作権法を引用する。

第三十七条(点字による複製等)
公表された著作物は、盲人用の点字により複製することができる。

つまり、点字教科書の場合は著者の許諾を取らなくても点訳できることになっているのである。しかし、拡大教科書の場合は出版社のみならず、原作著者・画家・写真家等に許諾を得なければ作成できないのである。この許諾は、弱視児の見えやすさのために挿絵の一部を消去したり、線を太くしたりする場合にも言えることである。著者が外国人の場合はさらに複雑なようである。

これらの法律から分かることは、拡大教科書が法律の間でいかに認知されておらず、且つ作成しにくい状況にあるかということである。下記に上位法である教育基本法を引用する。

教育基本法第三条(教育の機会均等)
すべて国民は、ひとしく、その能力に応ずる教育を受ける機会を与えられなければならないものであつて、人種、信条、性別、社会的身分、経済的地位又は門地によつて、教育上差別されない。

現在の弱視児の置かれている教育環境は上記の教育基本法及び法の下の平等を定めた日本国憲法の精神にも反するすると言っても過言ではないと考える。