日頃より視覚障害者の鉄道利用における安全性の向上にご尽力いただいていることに深く敬意を表します。
8月15日の銀座線「青山一丁目」駅や10月16日の近鉄大阪線「河内国分」駅で視覚障害者のホーム転落死亡事故がありましたが、私たちはホームドアの設置はもはや国家的緊急課題だと考えております。当会では視覚障害者の駅ホームの安全のために、ホームドア設置のほか、以下の8点について要望事項をまとめました。駅ホームにおける安全性向上のための検討会の中間取りまとめや今後のバリアフリー整備ガイドラインの改定など、これからの鉄道施策に反映していただきたく要望する次第です。
何卒ご検討の程、よろしくお願い申し上げます。
近年の視覚障害者のホーム転落事故の多くは警告ブロック沿いを歩いていて起きています。昨年の阪急宝塚線でもそうですし、一昨年の新京成線でもそうでした。これは、点字ブロックの敷設の方法、もっといえば国土交通省のバリアフリー整備ガイドラインに本質的な問題があるように思います。
点字ブロックは、線状の誘導ブロックと点状の警告ブロックの2種類があります。ホームの端に敷設してある警告ブロックは本来「止まれ」を意味するものであって、それに沿って歩く誘導ブロックではありません。東京メトロも、「警告ブロックは歩くためのものではない」と言っています。しかし、誘導ブロックがホームの前方から後方までは敷設されていませんので、視覚障害者は実際には警告ブロック沿いに歩かざるを得ないわけです。というのは、多くのホームで、誘導ブロックは階段から数メートル進んだところで、直角に曲がり、ホームの端の警告ブロックにつながっているだけだからです。これが国土交通省が示している「可能な限り最短経路により敷設する」というガイドラインです。すべての駅で同じ位置に階段があればよいのですが、乗車駅では3両目だけれど、降車駅では5両目というようにずれていることがほとんどです。それでは視覚障害者が乗車前に乗りたい車両に移動するときや降車時に階段近くの誘導ブロックにたどり着くまでは一体何を道標にホームのどこをあるけばよいのでしょうか。現状では警告ブロックに頼るほかはないわけですが、これは交通弱者である視覚障害者が線路までわずか0,8~1mのもっとも危険な場所を歩いているということを意味します。中には警告ブロックの内側は人が立っていたり、柱があるので、更に線路側を歩く視覚障害者もいます。言うまでもありませんが、晴眼者は決して危険な警告ブロック沿いを歩いてはいません。なぜ視覚障害者がもっとも危険なところを歩かなければならないデザインになっているのでしょうか。今回の転落事故現場の5メートル程先には柱があったということですが、そもそも警告ブロック沿いに歩いていなければ、柱の有無に関わらず事故は防げたかも知れません。警告ブロックが歩くためのものではないというのなら国土交通省や鉄道事業者には改めて視覚障害者の安全な動線の確保を考えていただきたいと思います。
従来、ホームの端には警告ブロックしかありませんでした。しかしこれでは視覚障害者がホーム側と線路側を間違える恐れがあるということで、国土交通省のガイドラインに内方線の敷設が盛り込まれました。そして今日では多くの駅ホームでガイドライン通りの内方線が敷設されています。現に青山一丁目の駅ホームにも内方線はありました。しかし内方線は本当に役に立っているのでしょうか。今回の事故では盲導犬を線路側ではなく、ホーム側に歩かせていたことや「下がって下さい。」という放送があっても線路側に寄っていって転落したことから推測すると、ホームと線路側を誤って認識してしまっていたのではと思います。阪急宝塚線や新京成線の事故現場にも内方線はありました。つまり、現行の敷設方法では、視覚障害者にどちらがホームでどちらが線路側かを認識させるという本来の目的は達せられていないということです。白杖で内方線の方向を認識するのはほぼ不可能ですし、靴底の硬い革靴などをはいていると足をグリグリずらさない限り感知することはできません。おそらく中途失明した直後の人にはもっと難しいものと思われます。そこでこの内方線を実効性あるものにするために内方線を警告ブロックより少し離して敷設するようにしてみてはどうでしょうか。そうすれば杖でも感知しやすくなりますし、足でも認識できるようになると思います。また、警告ブロック沿いを歩いていると電車を待っている人にぶつかることがありますが、電車を待つ時は内方線よりも内側に立ってもらうようにすればぶつかることも少なくなります。誘導ブロックがホームの端まで敷設できなくても、内方線と警告ブロックの間にスペースができればそこを視覚障害者の移動の動線として活用することもできます。これはあくまでも一案ですが、少なくとも視覚障害者は現在よりも安全な場所を歩けるということになります。
視覚障害者が警告ブロックよりも線路側を歩いた時の危険性に気付けるために、もう一つ考えられることがあります。警告ブロックより線路側の地面の材質をザラザラにし、明らかにブロックの内側を歩いた感覚と違うものにするということです。こうすれば仮に内方線を認識できなくても、地面の材質という手掛かりを認識することによりホーム側と線路側を区別できるようになります。もちろん、車椅子やベビーカーの移動に支障のない範囲内で工夫すべきなのはいうまでもありません。ちなみに伝聞ですが、アメリカではホームの本当の端に警告ブロックが敷設されているそうです。ですので、警告ブロックを踏んだ地点で、ホームの端にいるということが分かるようです。
白線と点字ブロックの役割がよく分かりません。関西では電車がホームに入ってくる時に「黄色い点字ブロックまでお下がり下さい。」という放送が流れますが、東京メトロでは「白線の内側までお下がり下さい。」という放送になっています。しかも白線は点字ブロックよりも線路側に引かれていますので、仮に視覚障害者が警告ブロック沿いをあるくと、ホーム上で待機している人とぶつかります。点字ブロックの啓発という意味でも、また衝突を避けるためにも内方線と警告ブロックを離した上で、白線を廃止し、関西のような放送に統一するのがよいように思います。
今回は駅員がしっかりホームを監視し、「下がって下さい。」という放送までしているので、駅員の安全管理はそれなりになされていたように思います。あえて言うと、「下がって下さい。」という言葉かけだけでは自分に向けられた言葉なのかどうかは視覚障害者には分かりません。また、今回のように線路側とホーム側を勘違いしている場合には下がるという行為が転落につながることもあり得ます。「白杖を持っている人、危ないです。止まって下さい。」とか、「盲導犬を連れている方、右に寄って下さい。」など、視覚障害者が分かるような声かけをしていただけると事故が防げる可能性が高まるように思います。
これまでのホーム転落事故は多くの場合、駅員がホームにいない時に起こっています。これは近年、鉄道事業者がホームから駅員を引き上げている傾向にあるからともいえますが、ホーム転落事故をなくす上では決してよいことではありません。駅員のホーム配置については何ら法律上の基準はなく、国土交通省は単に通達で鉄道事業者には「利用状況に応じて適正に配置すること」を求めているだけです。このようなあいまいな状態では人件費を削減したい鉄道事業者はどんどんホームから駅員を減らすことになります。例えばかつてホーム転落事故のあった西武池袋線「秋津」駅の場合、JRとの乗り換え駅であり、1日の利用客が約76000人もいるにも関わらず、駅員がホーム出場しているのは平日の朝の1時間15分のみです。周囲の人の声かけも大事ですが、一義的にはホームの安全管理は駅員が行い、更にそれを補う形で周囲の人の声かけを呼びかけるというのが本来あるべき姿だと思います。これは一案ですが、ホームドアのない駅で一定の利用客があるような駅では必ずホーム上に駅員、または警備員を配置しなければならないというような規則にすれば、鉄道事業者には人件費を削減するためにホームドアを設置しようとするインセンティブが働きますので、ホームドアの設置促進にもつながると思います。
国土交通省からの通達では、非常停止ボタンか転落検知マットのどちらかを設置すればよいことになっています。しかし、非常停止ボタンのみがあるホームで実際は視覚障害者がホームに転落しても非常停止ボタンすら押されないこともあります。現に近鉄の「河内国分」駅にも非常停止ボタンはありましたがホームに駅員もいなかったため、非常停止ボタンは押されていなかったということです。また、電車が進入してきている時は1秒でも早く電車を止めなければなりません。ホームドアのない駅で駅員がホームに終日いないような駅ではなおさら転落検知マットの敷設を義務化する必要があると思います。
現在は視覚障害者がホームに転落したとしても電車と接触しなければ事故と見なされず、国土交通省への報告の義務もありません。よって、国土交通省は鉄道事業者から任意で提出された件数を集約しているだけですので、視覚障害者のホーム転落そのものについて正確に実態を把握しているわけではありません。また、実際に死亡事故でない限り、鉄道事業者は転落事故を視覚障害者の自過失で処理してしまっていることもあります。しかし、ヒヤリハットの法則が警告するように本来は視覚障害者がホームから転落しそうになることそのものをなくす必要があります。そのためにも視覚障害者が電車に接触する、しないに関わらず、国土交通省への報告を義務化し、ホーム転落事故の実態を正確に把握する必要があると思います。
(連絡先)